会員及び賛助会員の皆様におかれましては、写真や画像に関する技術とその歴史/文化の深耕にむけ、日々ご活躍のことと思います。その一方で、昨年度はコロナ禍にあって、関係各位の皆様には、さまざまなご協力をいただき、学会活動が継続できたこと、ここに深く感謝申し上げます。本学会は1926年に創立された、歴史ある学会ですが、いまだに続く、このような危機は過去100年近い期間で、初めての試練であります。社会はいま大きな危機に直面しています。しかしこのような年にあっても、写真や画像の技術は、科学・カメラ産業・画像材料・保存・文化歴史に深く関わり貢献し、現代の社会の一翼を支えてきたと感じています。それは、100年先の希望と未来を託した写真・画像に対する期待であると考えます。ところで、『写真』:photographとはどういう意味を持つのでしょうか。
一般に、30年以上前は、写真といえば銀塩写真フィルムを用いたプロセスとプリントを指していました。広辞苑(岩波書店)の記載によれば、光学的手法云々の記載と並列に、『ありのままを写す』として写生や写実に近い意味のことも書かれています。江戸・明治時代の人々が初めて写真を見て驚愕したことが容易に想像できます。英語はもっとシンプルです。Etymology Dictionary等にPhoto(光)graph=graphic formulaと記載があります。総じて、『写真』photographという言葉には、『単なる画像化する技術の意味』に加えて、『芸術や精神に影響を与えるなにか』の両方が含まれていると思われます。『写真・Shashin』とういう言葉が、100年後も普遍的でかつ、身近な言葉になるのではと思いを馳せました。皆様はどうお感じでしょうか。
ここで、最近の日本写真学会の会員の活動の一部を振り返ってみましょう。名古屋大学の森島邦博特任助教らの研究グループは、原子核乾板(『写真Shashin』技術:ミューオン検出器(原子核乳剤フィルム:最近では自作するとのこと))を用いた宇宙線の観測により約4500年前のエジプト最大のクフ王のピラミッドの中心部に、未知の巨大な空間を発見しました。本成果は、世界的に注目をあつめました。これは『写真』が最先端の科学・物理分野に応用された事例です。
私たちは『写真』の持つ潜在力に着目しはじめました。そこで学会では次の10年、20年に向けて、この写真という言葉が切り開く、学術研究領域を開拓することを始めました。今年の年次大会(7月21~22日)では従来の学術研究発表に加えて、新しい学術領域を開拓するための展示・レビューという企画を作りました。学会の起源は、人々がサロンで懇談や情報を交わしながら、始めたものであると、聞き及びます。この展示・レビュー(サロン・懇談)では新規な学術研究発表とは別に、さまざま『写真(映像、画像を含む)に関わる情報や意見、アイデアを交換する場にしようと考えています。幸い、昨今のオンライン学会により、話題毎に小さい仮想ルームをいくつも作れることがわかりました。そのため、オンライン形式でも昨年より活発な議論が期待されます。
今年の計画している領域は4つをたてました。科学領域からは、「大きな宇宙と小さな粒子」、SDGs(Sustainable Development Goals)の観点からは「環境とエネルギー」、社会科学の領域からは、「文化と歴史」、医用の領域からは「健康な生活」 を挙げ、いずれの領域でも写真・画像・映像に関わるもの抽出して、テーマを模索し、構築していきたいと考えています。今年の写真学会の方針は「写真・画像と社会・文化の交差する領域を探る2021年」としたいとおもいます。引き続き、会員の皆様のご支援、ご協力をお願いいたします。